「不登校」は「自分の意志」で再び登校出来るようになるのか?(その1)

=自分の意志で再び登校できるか?=

ちょっと抽象的な話しと思われるかも知れませんが、今回は「自分の意志」という問題を考えてみたいと思います。大きな枠組みとしては、「人間に自分の意志があるのか?」という問題ですし、不登校への対処という意味では、「不登校の子どもは自分の意志で再び登校できるようになるのか?」という問題になります。

=人間には自由意志などない???=

結論を先に言うと、「人間に自分の意志があると言うのは大変に難しい」ということになります。多くの人が、「え!、そんな馬鹿なことがあるか!」と憤慨しそうですし、わたしもそうでした。しかし、1979年にリベットという人が行なった有名な実験以降、神経学や大脳生理学といった「脳科学」の分野で、さまざまな実験が繰り返し行われ、実験の精度が飛躍的に高まった今日でも、結論は、人間には自由意志はなく、人間は自分に「自由な意志があると錯覚する存在」だと言うことになります。

=変わりつつある人間観=

そして、この結論が心理学の分野に大きな変革をもたらし、その影響は哲学にも及んで、「人間は自分で判断し、その判断に基づいてあることを決心し、その決心通りに行動する生き物だ」という従来の人間観が大きく変わろうとしています。

=実行できない前の晩の決心=

不登校との関連で言うと、私の経験からも、不登校になった子が自分の意志で再び学校へ行けるかというと、それは非常に難しいと言わざるを得ません。難しいどころか、ほとんど不可能と言っても過言ではありません。私からみていると、学校へ行くと決心すればするほど、登校するのが難しくなります。まず、翌朝は起きられません。小学生の場合を言っているわけではありません。中学生も、高校生も、大学生になっても、「あしたは学校に行くから」と言って親を大いに喜ばせる人ほど、朝になれば前の晩の決心を実行できないのです。

=崩れかねない常識や社会的通念=

人間が錯覚しているだけで、本当は人間に自由な意志などないという事が真実だとすると、不登校の問題に限らず、社会の常識や通念などが疑わしくなるかも知れません。例えば、人殺しは重罪で何年もの刑罰を受けますが、これは、人間に自由な意志があり、その意志に基づいて人を殺したのだから、重い罰を受けるのは当然だという通念の上に成り立っています。しかし、人間に意志がないとしたら、刑罰の根拠は崩れてしまうのではないでしょうか。まして、何人もの人を殺せば、大抵は死刑となり、自らの死をもって罪を償わなければならないというのは、日本では常識ですが、人間に自由意志がないとしたら、死刑は正当だと言えるものでしょうか。

=学校に行かない子ども達という偏見=

不登校に対する大きな偏見は、「学校に行かない子たち」と言うものです。つまり、学校に行かないのは本人の勝手だと言うわけです。これも、子どもには自由意志があり、その意志によって、学校へ行かないことを選択しているという考えが前提にあります。実は、不登校の子たちは様々な理由があって、学校に行かないのではなく、学校に行けないのです。その理由を含めて、自分が学校に行けないことを理解していないことがほとんどです。

=リベットの実験=

不登校の話を続ける前に、「リベットの実験」に話しを戻しましょう。ベンジャミン・リベットは2007年に91才で亡くなったアメリカの神経学者(神経生理学者)です。リベットが実験のために準備したのは、オシロスコープタイマーという一種の時計、筋肉の運動を測る電極と脳(大脳皮質)の電位を測定し記録する脳波計です。学生ボランティア多数に被験者になってもらって行ったのは、自分で今だと思ったときに手首を曲げて、その決断をした時刻をあとから申告するという簡単なものでした。被験者には、繰り返し、「時計に合わせて動作してはならない、時計がいくつを指したときに手首を曲げようとしてはならない、あくまで今だと思ったときに手首を曲げて、今だと思った時刻を申告すること」という注意が与えられました。

=決断から動作までは平均0.2秒=

実験結果は表面的には何の変哲もないものでした。つまり、被験者が決断をしたその時刻から平均で0.2秒後に手首は曲げられていました。決断から行為まで0.2秒というのはちょっと長いと感じる人が多いかも知れません。もちろん反応が早い人もいれば遅い人もいるようですが、平均すると0.2秒はかかっているのです。例えば陸上競技ではスタートの合図から0.1秒以内にスタート板を蹴るとフライイングと見なされますが、近年、0.1秒未満で反応できる選手がいるらしいということで議論になっています。

=脳は決断よりも前に活動している!!=

ところが、奇妙なことに、その被験者の決断よりも平均0.35秒も前に脳波計が上昇していることが観察されました。つまり、順番的に言うと、動作よりも0.55秒前に電位は上がり、動作の0.2秒前に決断がなされ、動作が行われる、ということが明らかになりました。本人の決断の前に始まる電位の上昇は「予備電位(準備電位)」と名付けられました。さて、本人の決断の前に「予備電位」をスタートさせるのは一体何なのでしょうか?これが意識的な決断でないことは明らかですが、脳はその動作に向けて0.55秒も前から活動をスタートしていると言うことになります。

本日はこの辺にして、次回以降、現代の脳科学が明らかにする人間の「虚構」を考えていきたいと思います。

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  • カテゴリー: 未分類 |
  • 投稿日: 2019年11月12日 |

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