ACシリーズの第5回「子育てがしんどかったPママと次男のT君」(後半)

=溢れだした悲しい思い出=

しかし、この思い出を語ってからと言うもの、次から次へと悲しい思い出がよみがえって来ました。お母さんが授業参観に一度も来てくれなかったこと、欲しかった洋服があったのにそれを言いだせなかったこと、兄と姉には与えられた部屋が自分には与えられなかったこと、何でも姉のお古を使わなければならなかったこと、等々が堰を切ったように溢れだしたのです。

=なぜ胸が締め付けられたのか?=

おまけに、T君が不登校になりそれを母親に相談したPママに、母親が「なんでそんなことになったのかしらね。うちではどの子もみんな扱いやすい楽な子ばかりだったのに。特にあなたなんか本当に手のかからない子だった」と呟いたそうです。この時、Pママは何かしら苦しくなって胸が締め付けられるような思いをしたことを思い出しました。でも、それが何なのか、なぜなのか、考えることもなくT君を連れて家に帰って来たそうです。

Pママは「心の中遊ぶ平和主義者」?!=

さて、皆さんには、不登校になったT君の前に、お母さんのPママの「性格タイプ」を考えて頂きましょう。このブログを読んできた方ならPママが、「心の中で遊ぶ平和主義者」 だとすぐに感づいた方もいらっしゃったかもしれません。Pママは、何でも我慢してきてしまったのです。この性格タイプは、少しでも平和を乱しそうなことは決して要求しようとしません。誰かと衝突するくらいなら譲歩することを選びます。いえ、平和を乱すとか、衝突するとか、そんなことになる以前に、「お母さんはきっと忙しいに違いない」、「お母さんは今はお金がないんだ」「何か言ってお母さんを困らせたくない」、「私が黙っていればこの家は平和だ」、といつもこんな風に考えて我慢を通してきてしまったのがPママの生い立ちでした。

=子どもはどのように「機能不全家庭」を生き抜くか?=

そこで、どうして親であるPママの性格がT君の不登校と関係があるのでしょうか?それを考える前に、今度はT君の性格タイプを考えてみる必要があります。このブログ、「機能不全家庭」を扱った五回シリーズの中で、子ども達が「どのような役回りを演じるのか」を解説しました。「ヒーロー(ヒロイン)」「リトルナース(幼き看護者)」「ピエロ(道化師)」「ロストワン(迷子)」「プリンセス プリンセス(命なき人形)」「スケープゴート(生贄の羊)」と六つの役回りを説明しました。

T君はどの役回りを演じたか?=

ここまでの説明だけで、T君が「スケープゴート(生贄の羊)」の役回りを演じているのではないかと思った方は、とても鋭いと思います。スケープゴートは家庭の中で問題があらわになる前に、自ら問題を起こして自分が犠牲になり、家庭の問題を見えなくする役回りでした。それではT君の家庭の問題とは何だったのでしょうか?

T君の兄が模範生だったこと=

それは、T君の三歳上の兄が「ヒーロー」だったことと深く関係しています。母親のPママは、忍耐強く不平不満を言わずにいつも懸命に頑張るT君の兄を愛しました。T君のお兄さんは優等生であり模範生でした。弟のT君は、無意識に「母親が兄を愛し弟である自分を顧みないという家庭の問題」が明らかにならないように、次々と問題を起こしてきたと言って良いでしょう。

=意識的には母親の関心を自分に引き付けようとした=

意識の上では、母親が自分を愛さないという事態が決定的にならないように、母親の注意関心を自分に引き付けようとしたと言って良いでしょう。つまり、「無視されるくらいなら、殴られる(叱られる)ことを選んできた」のです。T君の問題児ぶりは実は幼稚園時代から明らかでした。小学校に進んで体力がついてから、相手の子に怪我をさせるような事態になったのです。

=いまだ癒されぬ傷=

さて、Pママのカウンセリングに戻りましょう。ある日、Pママに「気づき」が訪れました。「あなたは手のかからない楽な子どもだった」と母親から言われてPママの胸に湧き上がったのは「怒り」でした。しかし、Pママがその怒りを怒りとして認識するまでにさらにひと月近くがかかりました。自分は恵まれた子どもだった、愛された子供だった、両親は強く深い愛情を自分に注いでくれた、そういう思いがPママの「心の影」を見えなくしていたのです。Pママの両親の愛情は、もちろん、疑うことが出来ない真実です。しかしながら、幼いPママが深く傷付いたこともまた真実でした。Pママの「こころの影」に隠されていたものは「いまだ癒されぬ傷」でした。

=私はTが嫌いだった=

Pママがその傷に気が付いてから更に四回ほどのカウンセリングを経て、Pママはまた愕然としました。「私はTが嫌いだった」という事実に突然、打ちのめされたのです。兄と違って、そして子供時代の自分と違って、何でも訴えてくるT君が大嫌いだったことにPママはようやく気が付くことが出来ました。兄に注いだ愛情に比べて弟のT君に注いだ愛情はなんと形ばかりのものだったことでしょう。何か買って、何かやってと言われるたびに自分の心に射した影は「まるで憎しみのようだった」とPママは気が付くことが出来ました。そして、こころから思ったのです、「Tが要求していたものは私が昔欲しかったものばかりだった」と。

=兄弟がふたりとも不登校になっていたかもしれない!=

こうしてPママのT君に対する接し方は劇的に変わることになりました。その変化がT君の心に沁みわたって、彼は瞬く間に元気を取り戻していきました。さらに、Pママは、T君の兄に対する自分の愛情がゆがんでいた事にも気が付きました。要するに、エゴに満ちた愛情がT君のお兄さんに「ヒーロー」であることを要求してきたことに気が付いたのです。実は、T君の兄もPママの重圧の下、参ってしまう寸前だったのです。

T君の不登校がもたらしたもの=

いま二人の子どもの信頼に満ちたまなざしの中で、Pママはしみじみと思います。自分はなんと浅い人生を生きてきたことだろう。何か問題がありそうな事態になると、いつも「見ざる、聞かざる、言わざる、感じません、考えません」と、当事者になることからまるで逃げてきてしまった。そのためにもっともっと深く味わうべき喜怒哀楽を失ってきたのだと。子どもが出来てから、特に二人目のT君が物心ついた頃から、なぜ自分が「しんどかった」のか、今では良く分かるとPママは語ります。T君が母親である自分の「生い立ちの痛み」を語りかけてきたからだとPママは言います。もし、Tが自分のもとに来なかったら自分は何と不毛な人生を生き続けたことだろう、と語るPママはいま本当に幸せそうです。

以上

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