気長に待とうでは治らない起立性調節障害

「朝、起きれない」で始まる不登校の原因のひとつに「起立性調節障害」というのがあります。

=自律神経の不調?=

自律神経の調子が狂う病気で、目が覚めない、起きると目眩がする、気持ちが悪い、頭痛がするなど症状は多様ですが、ほとんどに共通しているのは「朝、起きれない」と言う症状です。子どもの年齢層では早い子だと小学校4年生くらいから、遅い子どもさんだと高校に入ってからかかったという話も聞いたことがあります。しかし中心になるのは中学生です。「朝、起きれない」と言って学校を休むようなことが続いたらまずこの病気を疑う必要があるでしょう。

=中学生の半数以上がかかるという調査も!!=

実は、この病気、男女の別なく身体の成長と関係があって、思春期を迎える子の半分くらいはかかるのだそうです。朝起きる時にふらついたり、座っている状態から急に立ち上がったり、歩き出したりすると目まいがしたり、そういう症状を感じる(自覚がある)という子は中学生の半数以上と言う調査があります。

=夕方になると元気になる子も少なくない=

もう一つ、午前中は寝ていたり、布団でゴロゴロしていたりするのですが、夕方になると次第に元気が出て、夜ともなるとケロリとして、「あしたは学校に行くから」と宣言する子も少なくありません。こうした事から、仮病ではないかと疑ったりする親もいる一方で、午前中の調子の悪さが異常なものに感じられて余計に心配する親もいます。ともかくも朝の調子の悪さは尋常ではないと感じられるのが普通です。

=不登校になるのは1パーセント未満!?=

でも、このうち長期にわたり不登校状態になるのは、自覚症状のある子どもの1パーセント未満なのではないかと思います。こういう自覚症状があるのに、平気でスポーツ部活で頑張っている子も少なくありません。

では、何が明暗を分けるのでしょうか?

=頭の良い子に多い?!=

これは私の推測ですが、不登校になるほどに「起立性調節障害」を悪くしてしまう子どもは、男女ともに、頭が良く、敏感で、神経質な子に多いように感じます。不登校の期間は短くても半年以上になることが多いです。長くなると2年も3年も治らないという例を聞きます。

=効く薬がない!?=

病院に行くと治るかというと、それが当てに出来ないのがこの病気の困ったところです。先ずはこの病気に効く薬がないのです。一般的には「漢方薬」が処方されることが多いのですが、良い先生ほど生活指導で治そうとします。「あさ、頑張って起きて陽の光を浴びなさい」「昼間、出来るだけ起きて過ごしなさい」「多少気持ちが悪くても頑張って昼間、散歩に行きなさい」「ゲームばかりやっているのは良くない」「頑張って昼間起きていたら、夜は早めに寝なさい」と言う具合です。

=ベテラン医師が強調する「生活リズム」の重要性=

朝起きて陽の光の中で活動的に過ごし、日暮れとともに活動を減らしていって十分な睡眠をとるという事を「概日(ガイジツ)リズム」と言います。その概日リズムをしっかりと取って生活しなさいと言うのが、ベテラン医師の生活指導です。

=薬は症状を悪くしかねない!?=

それで効かないと、子どもの親にせがまれる形で医師が出す薬は、「抗不安剤」や「睡眠導入剤」などですが、私の観察に依ると、逆に症状が悪くなることが多いような気がします。医師とよく相談することが大切です。

=症状が重かったお子さんの例=

この病気の背景にはストレスが関わっていることがほとんどです。

ここで、中2でこの病気にかかったA子さんの例を詳しくご紹介します。A子さんは中2の4月下旬から「あさ、起きれない」と訴え、学校を休み始めました。小学校低学年の頃から月に一二回、体調不良を訴えて学校を休むことがあったそうですが、中1の時にはお休みは2回しかなく快調だったとのお話でした。

=五月の連休明け・・・・・・・・=

5月の連休明けには何とか一日おき、あるいは二日おきに登校して、登校すると部活まで頑張って帰宅するのですが、家に帰るとほとんどベッドに倒れこむように寝てしまい、翌朝になっても起きられないのはもちろん、24時間、あるいは48時間も眠り続けるような状態になりました。これが病気の始まりです。

=薬は処方されなかった!=

心配したご両親(共働き)は仕事を休んで代わる代わる小児科専門の大きな病院に何回も連れて行って検査を受けました。お医者様の診断は「起立性調節障害」で、薬は処方せず、A子さんに、熱心に生活リズムの大切さを教え聞かせたそうです。繰り返しになりますが、曰く、「あさ、頑張って起きて陽の光を浴びなさい」「昼間、出来るだけ起きて過ごしなさい」「多少気持ちが悪くても頑張って昼間、散歩に行きなさい」「ゲームばかりやっているのは良くない」「頑張って昼間起きていたら、夜は早めに寝なさい」と言う具合です。

=「徹夜して、そのまま学校に行く!」=

しかし、A子さんはこういう指導を全く守ることが出来ず、起きられると時間に関わらず残り物のご飯をお腹いっぱい食べ、お風呂に長時間(3~4時間)つかり、出てくると楽しそうにゲームを始め、「あしたはこのまま起きていて学校に行くから」と言うのですが、やっぱり朝は全く起きられず、24時間単位でうつらうつらしているという状態が続きました。

=薬は処方されたものの・・・・・・・・=

さらに心配した親が主治医に病状を訴えますと、漢方薬と「抗不安剤」が処方されました。両親は、朝夕、A子さんを無理やり起こして、処方された薬を服用させました。ところが、症状はさらに悪くなり、全く起きられない状態が続き、酷い時にはまるまる4日間、白っぽい顔で寝続ける状態となりました。子ども部屋のある2階にはトイレがないため、階下に降りる階段で転倒して気を失って救急車を呼んだこともありました。

=夏休み中もまったく外出できず=

主治医の話では「夏休みがひとつのいいきっかけになる、学校はお休みになるから外出しやすいし、友達とも遊びやすい、それに家族旅行に行くなどして昼間の活動量を増やせるから」と言う話でしたが、A子さんの場合は夏休み中も全く軽快する兆しは見えず、そのまま秋学期に突入してしまいました。

=学校には行く必要はないと声掛けを!=

私のところに相談があったのは、9月中旬でしたが、私は「お子さんにはしばらく学校に行く必要はないと繰り返し声をかけて下さい」とご両親にお願いしました。同時に主治医に薬の服用を止められないか相談してくださいとお願いしました。これには、すぐに主治医のOKが出ました。

=積みあがったストレス=

10月に入ってようやく始めたカウンセリングでは彼女のストレスが次々に明らかになりました。

・中学受験したかったが学力が追い付かず、受験をあきらめざるを得なかった。

・進学した公立中は荒れていて、なかなか友人に恵まれなかった。

・私立に進学した小学生時代の友人達からくる「ライン」に悩まされた

・入った部活はほとんど休みがなく負担が大きかった

・勉強時間が取れず、中2になってますます勉強の遅れがプレッシャーになった

・塾に入ったが全くの逆効果で、宿題が増え睡眠時間が減った

・毎日、何一つ満足にこなしきれない中でストレスが積みあがった

=このストレスを親としてどういう風に受け止めますか?=

こうしてA子さんは「起立性調節障害」を発症したのですが、上に書き出した彼女のストレスを「これでは病気になっても仕方がない」と感じられる方もいらっしゃるでしょう。他方では、「これ位の事はどの中学生にもあるのに」とお感じになった方もいらっしゃるのではないでしょうか。私はどちらかと言うと後者の方で、これら日常の大きなストレスのほかにも何かあるのではないかと思ったのです。

=夫婦仲の悪さ=

案の定、彼女はさらに大きな精神的な負担に苦しんでいました。それはお父さんお母さんの仲の悪さでした。彼女に依りますと「もう思い出せないくらい昔から怖い夢を見ることがあって、その夢を見た日はたいてい学校に行けなかった」との事でした。

=怖い夢=

その夢はだいたいいつも同じ夢で「石造りの大きな橋が両端から崩れてしまい、橋の真ん中に立っている私はどちらにも逃げられずに谷底に落ちてしまうところで目が覚める」というものでした。これは言うまでもなく、両親の関係の破綻(離婚)を恐れる夢で、小学校時代からの体調不良は恐らくこれが原因だったのでしょう。そればかりか、つまらないことで夫婦喧嘩を繰り返す家庭の環境が、彼女にとって大きなストレスとして根雪のように横たわっていたものと思われます。その上に、中学に入ってからの上記の様々なストレスが加わって、とうとう心身のバランスを崩してしまったのでした。

=仲の良い夫婦でいることの大切さ=

ここで付け加えますと、現代の標準的な共働き家庭では特に「夫婦仲の良さ」が大切です。二世代三世代の大家族であれば、「夫婦のゆがみ」はお祖父ちゃんお祖母ちゃんの安定感でカバーされたりしやすいのですが、今は核家族ですから、夫婦仲が悪いとそれは子どもへの致命的な悪影響となることが少なくありません。省みて、子どもの前で平気で怒鳴り合っていたり、逆に氷のように冷たい関係だったりと言うことはありませんか。子どもの健全な成長には「仲の良いお父さんとお母さん」が必要です。これさえあれば、共働きだからと言って子どもの心身の成長に悪影響だということは全くありません。

=起立性調節障害になりやすい性格=

このブログでも何回か、不登校には「不登校になりやすい性格」というのがある」という話をさせて頂いています。それと同じように、起立性調節障害にも「なりやすい性格」というのがあって、それはほとんど「不登校になりやすい性格」と重なっています。明らかに「人との間に距離を置こうとする性格タイプ」の子が多いのです。どういうストレスをどの程度に抱え込んでいるか、そして心身の成長がどの段階なのかということが、この病気の発症に密接に関係しているのだと思います。

=少しずつ働きかけをしていく=

この病気の回復には、声掛けがとても大切です。

・自律神経が不調になる病気で、何も心配は要らないからゆっくり休みなさいと繰り返す

・学校にも詳しく状況を説明し、「病気の事は学校にも伝えてあるので心配は要らない」と繰り返し言って上げる

・ご両親が友達のこと、学校のこと、家でのこと、等々何かと話しかけ、よく話を聞いてあげる

・可能な範囲で早く起きて、夕方以降の散歩等、多少とも運動し、夜は早めに休むなど「生活リズム」を作ろうと声掛けする

・部活や塾など学校生活の負担を減らして学校復帰を目指す(午後だけの登校でも構わない)

=サクッと治る病気ではない?!=

この病気はストレスさえ軽減できれば快方に向かう病気です。しかし、すっきりサクッと治ることは少ないように思います。やはり、自律神経の調子が実際に狂ってしまうことと、ストレスを短期間に完全になくすというのは特にご家庭では難しいからです。

=A子さんは?=

ちなみに例に挙げたA子さんは、お正月休み明けから久々に登校し、その後、1週間に1日ないし2日休むペースで春休みに突入、この春休み期間中にクラスの友人とディズニーランドに遊びに行くことが出来て自信を付けました。中3新学年になってからも一か月にニ三回は欠席して十分に休息しながら受検勉強し、希望の高校に進学することが出来ました。今は、元気に高校に通う毎日です。

=ご両親の反省の弁=

お父さん:夫婦仲(の悪さ)が子どもにこれほどの悪影響があったとは思いもよらなかった。妻がくどくどと言い立ててくるのはもう当たり前で、怒鳴って黙らせることしか考えていませんでした。思い返せば、父親としてまったくなっていなかった。子どもの物心つくころから家庭とは言えない状況が続いてきて、これでは子どもがおかしくなるのも無理はないと悟りました。かわいそうなことをしてしまった。これからはどんなことがあっても娘の前で声を荒げるようなことはしないと自らに誓いました。

お母さん:私の人生の中でこんなに辛いことはありませんでした。一時は娘と心中しようかと思いました。あの青白い顔でねむり続ける娘の顔はもう絶対に見たくありません。私の心には一流企業を辞め自営業に転身した夫への不満がいつも渦巻いていて、どうしても夫を許すことが出来ませんでした。これは、私への天罰だったと思っています。夫の気持ちを思いやることが出来なかったし、娘にも夫の悪口ばかり言ってきました。元気になった娘の姿を見て、私は幸せだったことに気が付きました。これからはこの幸せに感謝していきたいと思います。

=「気長に待とう!」では治らない!!=

「治癒までに長期間かかる病気だから気長に待とう」では、この起立性調節障害はいつになっても良くならないということがあり得ます。不登校全般に言えることですが、「家庭で出来る対処法」があるので、積極的に働きかけを行いたいですね。子どもにどのように向き合うか、子どもをどのように理解するか、どういうタイミングでどういう風に働きかけを行うか、こういうことを積み上げていく事が、子どもの学校復帰を一日一日と早めていくのです。

以上

 

 

 

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