抑圧って何?防衛機制って何?

今回は、不登校マップで言うC群の不登校、つまり、いじめや愛情飢餓感、ストレスなど心理的な原因で起こる不登校のうち、「抑圧(ヨクアツ)」というこころの作用を伴う場合を考えてみます。

「抑圧」とは?

最近も私のところで「抑圧」と思われる例が出てきました。この「抑圧(ヨクアツ)」と言うのは、言葉の意味としては「抑えつけること」ですが、心理的な防衛機制(ボウエイキセイ)としての「抑圧」のことで、実際に体験したことを「忘れてしまい、思い出すことが出来ない」という状況を指しています。「防衛機制」というのは、「自分の心を打撃(ショック)や痛み、悲しみから本能的に守ろうとする事」です。これは、子どもでは珍しくないですし、あとから出てくる例の様に、大人でも起こることです。

病院の診断は「起立性調節障害」

中学2年生の女子の例を挙げます。新学年4月の5日目から学校へ行けなくなりました。直接の理由は、朝起きることが出来ない、起きると目まいと激しい頭痛がするという事で、病院では「起立性調節障害」と診断され、輝け元気!のカウンセリングに見えたのでした。様々な雑談の中で、「友達が出来ない」、「同世代の女子が苦手」、「自分の趣味はオタクっぽいので友達と気が合わない」等々の理由を挙げていて、人間関係で何かストレスがあり、それが「起立性調節障害」という体調不良になっていることは容易に想像が付きました。

所々で飛んでいる記憶

あれこれと友人関係を聞いていくうちに、新学年の最初の4日間の記憶が全くないことが分かりました。「思い出そうとすると頭が真っ白になって何も思い出せない」と言いだしたのです。「無理に思い出そうとしないでいいよ」と言って母親からこの間の事情を訊いてみると、「新学年の5日目に体調不良を起こすまでは特段変わったこともなく普通に登校していた」、「やや不機嫌で言葉も少なかったがいつもと変わりはなかった」との事でした。

しきりに歌っていた曲を「知らない曲だ」と???

この期間の記憶がないことをお話しすると母親は、何か思い出したように、「先日、テレビで合唱曲が流れていたのですが、『この曲、懐かしいね。あなたが1年の時に良く歌っていた曲だよね』と言うと、娘は怪訝(ケゲン)な顔をして『知らない曲だ』と言ったのです。その歌は中1の学級対抗の合唱コンクールで歌った曲で、娘は放課後、練習で何回も歌ったはずの曲だし、家でも口ずさんでは練習していたのです」と語りました。ちょっとしたスリラーですよね。

小学校時代の記憶は鮮明で連続して思い出せるのに、中学に入って、特に中1の夏休み以降の記憶が所々で飛んでいることが分かりました。

心理学の教科書に載っている例

例えば、こういう例を考えてみて下さい。熱烈な恋愛の末、結納も済み、結婚式の日取りも決まった女性がいたとします。ところが、その婚約者がなんと交通事故で亡くなってしまいました。女性は、心に大変に大きな打撃を受け、その日から茫然自失(ボウゼンジシツ)となりました。

転換性障害

そして、その知らせの翌日にはベッドから下りることが出来なくなりました。どう頑張っても、手足が動かず、歩くことはもちろん起き上がることさえ出来なくなってしまったのです。心に受けた打撃が「手足が動かない」という症状に転換(テンカン=置き換えること)されたと考えることが出来ます。これを「転換性障害」と言います。

一種の救い?!

転換性障害には、その女性を助ける面もあるのです。それは、「手足が動かないのだから」お通夜にも、お葬式にも、初七日にも、行くことは出来ない。つまり、行かなくて済む、という事です。彼女にはこういう悲しい「別れ」に立ち会わなくて済むという一種の「救い」が生じたことになります。この「救い」のことを「疾病利得(シッペイリトク)」と言います。

結婚式で使う髪飾りを買いに行ってきます???

さらに、初七日も終わった頃、その女性が急に歩けるようになって、「結婚式で使う髪飾りを買いにデパートに行って来ます」と母親に告げたとしましょう。母親は驚いて思わず「〇〇さんは亡くなってしまったのよ」と言います。

解離性障害

ところが、女性は「冗談もいい加減にしてよ、お母さん」と言って出かけて行きました。この女性は、婚約者が亡くなったという、その出来事に耐えられず、その出来事を心の奥底に押し込んで「否認(ヒニン)」、つまり「無かった事」にしてしまったのです。つまり、実際に起きた出来事を忘れてしまったのです。これを「解離(カイリ)性障害」と言います。逆に言えば、解離性障害を起こすことによって、この女性は精神的なショックや大きな悲しみから自分の心を守ったということになります。

「原因」が分からないままに起こることも!

この場合は「婚約者が事故で亡くなった」という誰にも明らかな原因があります。ところが「転換性障害」も「解離性障害」も、親はもちろん本人にさえ「原因」が分からないままに起こることがあります。先ほどの中2の女子の例に戻りましょう。朝、目が覚めない、無理に起き上がると目眩(メマイ)がする、起きていようとすると酷い頭痛がするなどして、病院へ行くと「起立性調節障害」と診断され、不登校になりました。

自分の心を守るために!

これは、何か心の打撃を受けて、その打撃から自分の心を守るために、その心の打撃を「目眩(メマイ)や頭痛という症状」に転換(テンカン=置き換える)したという事が出来ます。「転換性障害」ですね。

それでは、この例の場合の「「疾病利得(シッペイリトク)」は何でしょうか?彼女は、何を得(トク)したのでしょうか?

学校に行かなくて良い事が救い!!

それがまさしく「学校に行かなくて良い」ということです。学校に行けば、こころの打撃になった原因、つまり原因になった人に会わなくてはなりません。その人に会えば、また同じような打撃を受けるかもしれません。ですから、学校に行かなくて良いということが、この場合の彼女の「救い」です。そして、不登校になって家で過ごす日常生活の中でも、その打撃を受けた出来事を思い出さなくて済めば、その時の打撃も、その打撃に耐える苦しみからも自由で居られます。だから、現実に起きた出来事を忘れてしまうのです。この部分は「解離性障害」と言えますね。

抑圧は「記憶障害」を伴う

出来事を起きた順に整理して考えると

  1. 学校でショックな出来事が起きた
  2. そのショックを目眩(メマイ)や頭痛に置き換えた(転換性障害)
  3. 学校に行けなくなった(疾病利得)
  4. ショックな出来事を忘れた(解離性障害)
  5. 家で平和な日常生活を送ることが出来るようになった(疾病利得Ⅱ)

と言う風に考えることが出来ます。

身体表現性障害とも言う

この一連の流れを「心理的防衛機制」としての「抑圧」と呼びます。こころの打撃を目眩(メマイ)や頭痛という身体の症状に置き換えたという意味では「身体表現性障害」とも呼びます。そして、「抑圧」はこころの打撃となった出来事を無意識(意識の下)に押し込んで忘れてしまったことにするという「記憶障害」を伴います。記憶障害と言っても、忘れたことにしてしまったのであって、実際に忘れたわけではありません。まさしく、「思い出そうとすると頭が真っ白になる」と言う状態で、思い出すことが出来ないのです。

受け入れるには大きな悲しみが伴う

先の婚約者を交通事故で亡くした女性の場合も、起きた出来事をなかったことにする「否認」という防衛機制が働いていますが、この場合、記憶障害は比較的短く、徐々に起きた現実を受け入れていくことが出来ます。もちろん、受け入れるにつれて大きな悲しみに直面しなければならないことは言うまでもありません。

何年も忘れたまま?

ところが、不登校で良く起こる「抑圧」は期間が長く、ともすると何年も忘れたままの状態が続きます。この間、表面的には何ら問題がないかのように見える人がいる一方で、「起立性調節障害」が何年も続いたり、高校進学や大学進学と言う節目で原因不明の不登校がぶり返したりする人がいます。場合によっては、ある日突然、記憶がよみがえり、パニックを起こしたりすることがあります。これを、フラッシュバックと呼んだりします。

無理やり思い出させようとするのは禁物

忘れたことにしている出来事を無理やり思い出させようとすることは禁物です。無意識は必死になって記憶を更に心の奥底に押し込もうとしますから、ガードが固くなる一方です。そうなると、抑圧の悪影響と言うのは強まります。私の経験ですと、たとえば信頼していた友人に約束を破られたという出来事を抑圧したとすると、その悪影響と言うのは、その出来事を覚えていてショックを受けるよりも、ずっと大きなものになります。

抑圧の悪影響は大きくなる

覚えてさえいれば、泣いて怒ったり、親に当たり散らしたり、翌日学校に行ってその友達に抗議したり、訳を聞いて相手にも事情があったことが分かったり、こころから謝ってもらったり、悪意の裏切りだったとしても、自分の友情に値しない相手だったと諦めることも可能になってきます。つまり、怒りや悲しみやショックを和らげる方法も出てくるのです。しかし、その出来事そのものを抑圧してしまうと、そういう現実の対処が一切できなくなってしまいます。不登校になって、その相手と会う事もなくなれば、何がショックだったのかさえ分からないまま、登校しようとすると嫌な感じがして、「なぜだか分からないけどどうしても無理!」となってしまいます。

あわてて転校などさせない

不登校に、この「抑圧」が絡むと事態は難しくなります。心理的な不登校(C群)の中でも最も難しい不登校と言って良いかもしれません。親が慌(アワ)てて転校させるなどの対処をしないことが大切です。下手をすると、その出来事が起きた学校という「抑圧の舞台」を奪ってしまうことになりますから、解決の糸口を失ってしまう事にもなりかねません。

見えて来る二重三重のストレス

カウンセリングで、固く閉ざされた心を紐解いていくと二重三重に重なったストレスが見えてきます。学校、クラス、部活動、塾、それに家庭でのストレスが重なっている場合などです。

絡み合った原因が逆に学校復帰の手がかりに

不登校は、多元的だと常々言っていますが、抑圧を伴う不登校も原因は一つではありません。本人の性格タイプも含めて、いくつかの原因が絡まっていることが、むしろ、解決の糸口になります。こうした複数のストレス源を言葉にしていくことで、こころの重しが取れたようにポッコリと失われた記憶がよみがえってくることがあります。防衛機制が外れるのです。

大切な学校側の配慮と協力

それがなくても、嫌な感じがする人間関係を確かめて行ける場合が少なくありません。こうして、学年の変わり目などに、学校側の協力を得てクラス編成を工夫できると、多くの場合で学校復帰が可能になります。

苦しむ姿こそが正常?!

もう一度、婚約者を亡くした女性の話に戻りましょう。茫然自失で体が動かなくなる、さらに、婚約者の死を忘れてしまうというのは、心が正常に働かない、つまり障害された姿です。本来は耐えがたい痛みと悲しみに苦しむ姿こそが正常なのです。

起立性調節障害が原因なのではない!

同じように、この例で取り上げた中2女子も、起立性調節障害という病気が不登校の原因なのではなく、その病気の原因として幾重にも重なったストレスがあって、心が正常に働かなくなってしまったと見ると、不登校への正しい対処の仕方が見えて来ます。学校には行かせずに十分に休ませる一方で、そのストレスを自覚できるようなカウンセリングを積み重ねていくことが是非とも必要です。

以上

 

  • カテゴリー: 不登校 |
  • 投稿日: 2017年07月5日 |

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