毒親と言う現代の病

最近、

「毒親に育てられるとアダルトチルドレン(AC)になるのか?」

「毒親とアダルトチルドレン(AC)とはどう違うのか?」

というような質問を受ける機会が増えました。

若干の混乱があるようですので、今回は「毒親と言う現代の病」というテーマで、アダルトチルドレン(AC)を含めて書きたいと思います。また「機能不全家庭(家族)」という考え方も併せてご説明します。

毒親とは?

毒母(毒ママ)、毒父(毒パパ)、また「モラ母」という言葉も同じ現象を指しています。つまり、文字通りの暴力による「児童虐待」、または過保護や過干渉などの「優しい虐待」によって、「毒のような悪影響を子どもに与える親」という意味で使われています。

もともとはアメリカのカウンセラーであるスーザン・フォワードが書いた「毒になる親Toxic Parents」から出た俗語で、「子どもの人生を支配する親」のことを指し、一種の「虐待親」として扱われてきました。スーザン・フォワードはその著書の中で、「毒親に育てられた子は、毒親からの児童虐待によって苦しみ続ける」と書き、さらに、「毒親の子は毒親を許す必要などない」と主張しています。

アダルトチルドレン(AC)とは!?

それでは、AC(アダルトチルドレン)とは何でしょうか?

日本では、どうしてなのか、ACというと「子どもっぽい性格のまま成人してしまった人」という間違った通俗解釈がこの言葉に与えられてしまいました。そして、これもどういう訳なのか、この間違った用法が、日常会話の中やマスメディアによって、広く定着してしまった感があります。

子どもではなく大人を指す

もともとはクラウディア・ブラックというアメリカの女性カウンセラーが、「アルコール依存症(アル中)の親の下で育ち成人した人達」を指して言った言葉Adult Children of Alcoholicsです。ですから、もともとは「アルコール依存症(アル中)の親に育てられて、長期にわたって肉体的かつ精神的な虐待を受け続けて成長した大人」を指しているのです。

このACの人達に共通するのは、大人になった今もこころの中には、

「決して安心することが出来なかった子供」

「生きるために自分を偽らざるを得なかった子供」

「何か(例えば母親や弟妹)を守るために、自分の一部を殺さなくてはならなかった子供」

がトラウマとして生きていて、大人となり親から離れて独立しても、意識的にも無意識的にもその人を苦しめているのです。

「毒親に育てられるとACになるのか?」は正解?!

アル中の親に虐待されながら生きて来て、大人になっても虐待のトラウマから逃れられずに苦しみ続けるという事ですから、その人の親はまさに「毒親」と言っていいでしょう。このように見てくると、「毒親に育てられるとACになるのか?」という疑問はだいたい正解と言って良いと思います。

毒親は毒親を育てる!?

さらに、アダルトチルドレン(AC)の人が結婚して子供を設け親となると、今度はその人が「毒親」となり、生まれてきた子どもをアダルトチルドレン(AC)にしてしまうという事が現実に起こります。それは、その人が親から愛情を受けられなかったために、本当の愛情を知らず、我が子にどのように愛情を与えればよいのかがさっぱり分からないことが原因になるのです

まるで遺伝!?

他の家庭のやり方をまねて子育てに励みますが、子どもがなぜ泣くのか、子どもがなぜ甘えて来るのか、さっぱり分かりません。胸にはイライラや怒りが湧きあがるばかりで、愛おしさ(愛情)を感じることはないのです。そして、その事が新たな苦しみとなり、絶望となって、またその人を苦しめることになります。このように、「毒親はACを育て、ACは毒親となって再びACを育てるという悪循環」になりやすいと言えます。まるで、遺伝のように受け継がれて行くのです。

機能不全家庭という考え方

ところが最近の研究でアダルトチルドレン(AC)だと思われる人の親を調べてみたところ、毒親になる人は何もアル中(アルコール依存症)に限らないという事が分かってきました。たとえば、交通事故で親を失った子どもがACになる、あるいは、親が過保護だったり過干渉であったりしたことから子どもがACになるという事が多かったのです。つまり家庭内暴力(DV:Domestic Violence)とは無縁の家庭でも、子供をACにしてしまうという実態が驚きをもって迎えられました。そこで、毒親やアダルトチルドレン(AC)をより分かり易く説明するために出て来たのが、「機能不全家庭」あるいは「機能不全家族」という考え方です。

要するに、親がアルコール依存症という場合だけでなく、子どもをアダルトチルドレン(AC)にしてしまう家庭を広く「機能不全家庭」あるいは「機能不全家族」と呼ぶことにしたのです。

機能不全家庭の悪影響とは?

「機能不全家庭」とは、「親の子育て」、「家族のだんらん」、「隣近所や学校、そして地域との関わり」と言うような、普通の家庭に普通に存在しているはずのごく普通の機能が、健全に機能していない家庭(家族)を指しています。そして、この「機能不全家庭」で問題なのは、家庭内で日々起こっている不健全な出来事そのものと言うよりも、その家庭の中で育っていく子どもに日々浸み込んでいく悪影響です。

機能不全家庭で育った子供は、その自分の家庭環境や家庭の考え方(価値観)が当たり前であるかの様に思って成長することが多いからです。また、幼少期の重要な人格形成の時期に、本当の愛情をもらえる機会が極端に少ないことなどによって、健全な自己愛や自尊心、他の人への共感や他の人の苦しみに対する思いやりなど、大切な人間的資質に欠けた人間になりやすいからです。

こうして、機能不全家庭の中から「社会と健全な関係を築くことができない大人が輩出されてしまう」という結果が生じることになります。しかも、それが遺伝していくという事ですから恐ろしい事だと言わねばなりません。

もう一度!!アダルトチルドレン(AC)とは!毒親とは!

この「機能不全家庭」をもとにもう一度ACを考えてみましょう。子供が本来必要としている「衣食住」や親と兄弟姉妹に対する「安心感」や「愛情」という健全に発達するために不可欠な要素を欠いてしまっている家庭で育ち、成人してもその影響で、人との間に共感や愛情を通わせることが難しく、生きることに喜びを見いだすことが出来ない大人に、「ああ、あなたはアダルトチルドレン(AC)ですね」という言い方をしましょう、という事です。

そして、そういうACの人は、「私の親は毒親でした」と言って、自分の生い立ちを語るかもしれません。

ACとは毒親の子・・・・・・・・

毒親の子は、人を信頼することや本当の自分を人に正直に表現することに強い恐怖心があるため、日常生活でも対人関係がうまく行かず、いつも強い緊張を強いられます。このため人間関係に疲れやすく、何をやるにしても充実感や達成感に乏しく、ほとんど慢性的な虚無感に苦しむ方が少なくありません。言い換えると、「自分には生きる意味がない」とか「人生は虚しく辛い」という実感に苛まれているのです。親であれば、「子育てとは何と喜びの無い苦行のようなものなのだろう」と感じるのです。

自分は毒親なのではないか?という健全な疑問

日本の現代社会では、自分はアダルトチルドレン(AC)ではないか?つまり、自分は「機能不全家庭」で育ったのではないか?あるいは、自分の親は毒親だったのではないか?という疑問を持つ人や、逆に、いま子育てをしている自分の家庭は「機能不全家庭」ではないか?自分は毒親なのではないか?と恐れる親も少なくないように思います。

こういう疑問や恐れを持つこと自体、私はとても良いことだと思っています。と言うのは、もし自分がアダルトチルドレン(AC)ならば、いま自分がしている子育てはひょっとして「優しい虐待(暴力のない虐待)」なのではないかと気が付けるかもしれません。また、ひょっとして自分の家庭が「機能不全家庭」なら、子どもがアダルトチルドレン(AC)になってしまうかもしれないと、その危険性に気が付けるかもしれないからです。

分かりにくい「自分の事」

とは言っても、自分がアダルトチルドレン(AC)なのか、そうではないのかという事も、自分の家庭が「機能不全家庭」なのか、そうではないのかということも、そう簡単にわかることではありません。なぜなら、誰しも自分が育ってきた家庭が標準的な家庭だとどこかで思っていますし、そう思うからこそ、それと同じような標準的な家庭を作ろうとするのが自然だからです。

また、ふとしたことで他の家庭や親子関係を見た時にも、「ああ、どこの家もおんなじね。うちと同じことをやっている」と感じたことは誰しもあるのではないでしょうか?しかし、本当に同じようなことをやっているのか、実は「優しい虐待(暴力の無い虐待)」をしているのかは、外見的なことでは分かりません。

親がそうだったように子どもも「命の泉」を涸らしてしまう!

親は愛情がなく形だけ普通に取り繕っているだけかもしれませんし、子どもはそういう形を受け入れつつ、実は本当の愛情に飢えているかもしれません。そして、親は、自分の愛情のなさに気が付かず、子は自分の愛情飢餓感に気が付かないという事も少なくないのです。そういう子どもは我知らず心の元気を失い、疲れ果てて不登校になりやすいです。愛情をもらえないので、「命の泉」を涸らしてしまうのです。

何が家庭を機能不全にしてしまうのか?

さて、なぜ機能不全家庭になるのか、その要因として次のようなものが挙げられますが、ここでは「昔ながらの要因」と「現代的な要因」とに分けて考えます。

「昔ながらの要因」

1.親の依存症:アルコール依存症、ギャンブル依存症

2.親のライフイベント:事故や病気による親の死亡、親の浮気、両親の離婚、親の再婚

3.親から子への虐待:精神的な虐待、肉体的な虐待、性的な虐待、家庭内の暴力(ドメスティック バイオレンス)

4.家庭の貧困:サラ金地獄、生活困窮

5.その他:望まれない出生、不遇な里子体験

「現代的な要因」

1.親の依存症:ゲーム依存症、薬物依存症

2.親のライフイベント:子を残しての母親の自殺

3.親から子への虐待:両親の不和、母子共依存という虐待、親が子を精神的に見捨てる事(ネグレクト≒育児放棄)

4.家庭の貧困:生活苦を伴う家族の病気(難病、親の介護)、

5.その他:嫁姑(ヨメシュウトメ)問題、親がカルト宗教にのめり込む

現代的な要因では特に、その家庭を構成する親、または祖父母などが、機能不全家庭で育ったという事が少なくありません。

「両親の不和」などは昔からあったではないか!

もちろんそうです。そういう意味では「嫁姑問題」なども昔ながらの問題ですが、大家族から核家族へ、専業主婦家庭から共働き家庭へ、晩婚化と少子化、等々の時代の変化が新しい家族問題を引き起こしているので、ここでは昔ながらの問題とは区別しました。実際、問題はより深刻になっているのですが、紙数が足りないのでここの議論はまた別の機会に譲りたいと思います。

確かめたい生い立ちと現在

さて、一つ一つ、自分の育った家庭に該当するかしないか、確かめてみてください。あるいは今、ご自分が親として子育てをしている家庭にこのような要因はないでしょうか。例えば、「両親の不和」などはどうでしょうか。夫婦喧嘩は犬も食わないなどと言われますが、子どもへの悪影響としては非常に大きな要因です。犬は食わなくても、子どもはたらふく食べているかもしれません。

また、「躾(しつけ)」として為される暴力は軽く見られがちですが、子殺しの当事者(親)が良く言うのが「ただの躾(シツ)けだ」という言葉です。そして、母親も子殺しに加担しているのが現代の特徴です。

それから「母子共依存」も自覚が持ちにくい「虐待」です。過干渉で子が親の奴隷になる場合も、過保護で親が子の奴隷になる場合も、立派な虐待です。

これらはみな、大家族から核家族へ、専業主婦家庭から共働き家庭へ、晩婚化と少子化、等々の時代の変化を反映してより過激になり、より多くの負担を母親に求めるという形になっています。マスコミが報道しないので知られていませんが、「子を残しての母親の自殺」の増加がそれを表しています。

毒親を赦(ユル)す必要などない!?

私もスーザン・フォワード女史のいう事は良く分かります。特に日本のカウンセラーは、クライアントの心の傷(トラウマ)を癒すためには「赦(ユル)し」が不可欠だと考えて、トラウマとそれを残した親の虐待を十分に掘り下げていません。それが不十分なまま「赦(ユル)せ」と言われるのですから、クライアントはたまったものではありません。不十分なカウンセリングはクライアントを更なる苦しみに突き落とします。親を赦せない私は、やっぱり何と親不孝な子だろうと、ますます自責の念と罪悪感に駆られるからです。

毒親もまたアダルトチルドレン(AC)!

毒親をもし十分に掘り下げて考えることが出来れば、その毒親もまた過酷な虐待を耐え忍んで生き抜いたアダルトチルドレン(AC)だという事が分かります。

A子さんは毒親の無視と無関心に苦しんだアダルトチルドレン(AC)です。生まれた我が子に愛情を感じることが出来ず、私のところを訪れました。当初は、A子さんの母親が自分を愛さなかったのは、自分がいけない子だったからだと固く信じていました。色々とお話を伺っているうちに、A子さんは母方の祖母が亡くなった時の事を思い出しました。それほど昔の事ではなかったのですが、A子さんはすっかり忘れていたのです。祖母の葬儀が行われた後、A子さんは実家に寄ったのでしたが、お母さん(母親)がほっとした明るい表情を見せていたことに気が付きました。

A子さんの述懐

「母は赤ん坊を抱いたことは一度もなかったのですが、その日は娘を抱き上げました。母は祖母が死んだことを喜んでいたのだと思います。初めて、祖母の呪いから解放されたように感じていたのではないでしょうか。母は私の目を見ることはほとんどなかったのですが、その日は私の目を見て、この子は何か月?と聞きました。いま私は、母も私と同じだったのだと気が付きました。母も私と同じように娘の私をどうやって可愛がったらいいのか分からなかったのだと思います。私がそうだったように、きっと私のことを異物か何かのように感じたに違いありません。それは、きっと母のせいではなかったのです。そして、私のせいでもなかったのです」。

毒親なんていない!

毒親もまた自分と同じアダルトチルドレン(AC)なのだと悟ることは、ACが癒されるためにどうしても必要なプロセスの様に思われます。

 

毒親に苦しんだ皆さん、そして今も毒親のトラウマに苦しむ皆さん、毒親を憎み続ける事も必要ですが、それ以上に、毒親のことを理解しようとすることも必要です。それさえできれば、子どもを愛することは十分に出来ます。愛することが出来るという事は、あなたも幸せになる事が出来るという事です。

 

次回は機能不全家庭で、子どもがどのように生き延びるか、具体的に見て行きます。どうぞお楽しみに!

 

コメント

  1. CHIHARU、takayosi

    お久しぶりですぅ(ノ∀`笑)
    色々と考えさせられます毎回
    その場その場で子供達は表情や行動もしくは言動
    が違いますから
    ついて行こうと必死になり過ぎになる我が家ですぅ
    ウチは3人居ますが‥‥性格も価値観も
    違います
    長女は中学時代は引きこもりでしたが
    今は市立の高校に無事に通ってますが
    長男は発達障害で児童相談所に相談‥‥色々と施設を転々としたあげく施設からも問題を起こした結果、
    家庭裁判所からそのまま鑑別所に行き
    ここの土地から離れて埼玉の施設で過ごしてます
    次女も度々小学校を不登校になりつつあります
    片親一人ですから‥‥大変ですが‥‥
    日々‥‥子供達に教えられながら生活してます

    1. kagayake 投稿作成者

      たいへんですね~!本当に大変だと思います。
      >日々‥‥子供達に教えられながら生活してます
      このお気持ちが尊いですね!!
      いつも心から声援をお送りしています。
      大門隆

  2. 関口由紀子

    失礼します。記事を拝見いたしまして、とてもためになりました
    わたくしの場合、元夫のDVという事象により、離婚しこどもを残し逃げてきた経緯があり、その事象によるこどもへの影響をとても懸念しています。こどもにとっては、父親、母親が大好きでありながら、相手方とわたくしはまったくの他人でわたくしは接触するのを避けており、調停により得た面会交流の時のこどもの表情にとてもこころを痛めています。せめて、面会交流の時にはわたくしの愛情をこめて見守る、としかできない状況下でございます。今後、こどもに思春期などにおいて、精神面になんらかの形で悪影響が出てくるのではないか。。。とかなり懸念を抱いております。

  3. kagayake 投稿作成者

    お子さんが元夫の暴力に晒されていないか心配ですね。兆候があれば児童相談所などに対応をお願いする必要がありますね。
    大切なのは、お母様が必ず約束を守り、どんなことがあってもお子さんに会いに行くことです。せめて子供から恨み言を言われるだけの関係は維持しないと、お子さんがACに苦しむという事は十分にあり得ます。
    離れていても精神的に支えることは出来ます。
    離婚は致し方ないことで良い選択でしたが、お子さんが「見捨てられた」と思わないためにあらゆること、出来る事は何でもしていきたいですね。
    いつも心からの声援をお送りしています。

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