機能不全家庭・・・・・・・・アダルトチルドレン(AC)のゆりかごPartⅤ

さて今回がこのシリーズの最終回になります。アダルトチルドレン(AC)はどのように癒されるのか、そこを展望したいと思います。

ワーナーの32年に及ぶ研究

今回は、いわば劣悪な家庭環境の中で育ったにもかかわらず、アダルトチルドレン(AC)になることなく成人し、愛情に満ちた家庭を築いた子ども達のお話です。これは、ワーナーという研究者が、ハワイのカウアイ島で1955年に生まれた698人の子どもを32歳になるまで追い続けた研究の結果です。(うち12名の子どもは2歳以前に死亡したため対象者は686名になります。)

この中で、ワーナーは、まず「機能不全家庭」で育った201名を特にハイリスク児(≒ACになるリスクが高い子ども)として選んでいます。どういう要因を持つ家庭を「機能不全家庭」としたかと言うと、下記の要因を挙げました。

  1. 母親が妊娠中や出産期に合併症を引き起こした場合(子どもが母胎で危険にさらされた場合)
  2. 家庭の所得が一定の水準以下で「貧困家庭」とみなされる場合
  3. 両親の教育を受けた年数が8年以下の場合
  4. 両親が不和である場合
  5. 両親が離婚した場合
  6. 親の少なくとも一方がアルコール依存症の場合
  7. 親の少なくとも一方が精神病を患っている場合

子どもが2歳の時点で、上記7項目の要因のうち四つ以上が該当する場合を、「環境劣悪な家庭(≒機能不全家庭)」とし、その家庭で育った子供を「ハイリスク児(≒ACになるリスクが高い子ども)」としました。当時は、アダルトチルドレン(AC) という概念もなかったですし、「機能不全家庭」と言う考え方も整理されていなかったので、PartⅠで挙げた「要因」とは「ずれ」があります。しかし、7項目中4つ以上に該当する家庭の子どもを選んでいるわけですから、選ばれた子どもは現代の基準から言っても「機能不全家庭」で育った子ども達だと考えて差し支えないでしょう。

皆さんは、この201名のうち何人くらいがアダルトチルドレン(AC)にならずに、幸福感のある幸せな大人になったと思いますか?

ワーナーは「アダルトチルドレン(AC) であるか否か」と言う基準で分けたのではなく、「よく遊び、よく働き、よく愛する、有能で信頼される人間」という基準を作りました。ここでは簡単に「たくましく善良で幸福感あふれる人間」と呼ぶことにしましょう。32年後のワーナーの調査では、ハイリスク児とされた201名中、なんと72名がこの「たくましく善良で幸福感あふれる人間」とされたのです。実に、3人に一人以上に上ります。

何が子ども達を幸福にしたのか?

ワーナーは、この子ども達には、ストレスへの防衛を可能とする「保護因子」が家庭の内部と、親せきや学校などの周辺に存在し、また、子ども達自身の「性格」の中にも「保護因子」が存在したと述べています。ここでも「性格」がストレス耐性と関係があると指摘されています。

まず、彼らの「性格」からワーナーの報告を見てみましょう。

A.家族からも見知らぬ人からも好意的な反応を引き出す温和な性格を持っている

B.活動のレベルはやや高く、逆に興奮や落ち込みの程度は低く、高い社会性を持っている

C.幼児期から「活発」「優しい」「のんき」「気楽」「落ち着いている」と言う評価を親がしており、養育者を困らせる食事や就寝の「扱いにくい習慣」がなかった

D.生後20か月の時点で、敏捷性と反応性が高く遊びが活発で、新しい体験への挑戦心に富み、「自分に出来ない時に誰かに助けを求める傾向」が観察された

E.小学校入学後に、学習課題への高い集中力、問題解決能力、読解力が教師によって指摘されていた

一方で、環境のなかでの「保護因子」についてみていきましょう。

F.家庭の貧困、両親の不和、親の精神病などにもかかわらず、人生の最初の数年間、親身に世話を焼いてくれる人(母(父)、姉(兄)、祖母(祖父)、叔母(叔父) 等)が一人以上あり、その人と強い絆(キズナ)を結ぶ機会に恵まれた

G.劣悪な家庭環境にもかかわらず、家族内に一定の秩序とルールがあり、特に「家の手伝い」が日課の一部となっていた

H.特に、父親の欠損家庭(父親がいない家庭)の少女にとって、自ら母親の代理として弟妹の世話をしたことが、明白な自立心と責任感を養った

I.特に少年については、家族/親族内に模範となる強い男性(祖父や叔父)が存在した

J.学校、近所付き合い、教会などが、「家庭外の家庭」として、また、崩壊した家庭からの「避難所」として機能した

以上、10の「保護因子」があると述べています。これらの因子をたくさん持てば持つほど、アダルトチルドレン(AC)になる可能性から遠のいたと言えるでしょう。逆に、これらの「保護因子」が少なければ少ないほどアダルトチルドレン(AC)になる可能性が高まったと言って良いでしょう。

アダルトチルドレン(AC)になって生き残った子ども達の「確信」

さて、残念なことに、残る129名の子ども達は、「たくましく善良で幸福感あふれる人間」になることは出来ませんでした。私は、この研究報告から、生き残るためにアダルトチルドレン(AC)にならざるを得なかった子ども達についても学ぶ必要があると考えています。なぜかと言うと、心の傷をいやしアダルトチルドレン(AC)から脱しようとするときに、PartⅡ~Ⅳでやった「役回り」と共に、大きなヒントをここからも引き出せると考えているからです。

「よく遊び、よく働き、よく愛する、有能で信頼される人間」になれなかったという事は、彼らは「遊びを楽しめず、働くことに疲れやすく、人を愛する事のない、能力に乏しく、信頼されにくい人間(大人)」になったということになりますね。後半の「能力に乏しく、信頼されにくい」と言うのは明らかに語弊があります。私は、能力も高く、信頼もされているアダルトチルドレン(AC)の方々をたくさん知っているからです。

しかし、決定的なのは、「幸福感がない」というところです。ここから「生き辛さ」「虚しさ」、そして「自分の人生に喜びが訪れることはないだろう」という「確信」が生まれます。この「確信」こそは、アダルトチルドレン(AC)の本質なのです。

アダルトチルドレン(AC)克服の手がかりの乏しさ

アダルトチルドレン(AC)は、重症になればなるほど、幼いころの思い出と言うのがありません。覚えていても「白黒の音なし映画」を見ているようだとか、思い出そうとするとすごく大きな力で思い出を押さえつけられる感じがするという方が多いです。そして、楽しさとか喜びとかがないばかりか、「苦しい」「悲しい」「辛い」と言った否定的な感情すら湧いてこない人たちがいらっしゃいます。こういう否定的な思いに苦しむ方はアダルトチルドレン(AC)としては軽症なのですが、それでも、具体的な出来事が幼少時の思い出として語られることが少ないです。これが、一般的なカウンセリングで非常に長い期間が必要になる大きな理由です。

それではアダルトチルドレン(AC)の心には何もないかと言うと、それは全く逆なのです。アダルトチルドレン(AC)は、いわば「持ちきれない荷物」を抱えてとぼとぼと人生を歩く疲れ切った旅人です。ただ自分がどんなにか重い荷物を背負っているか、その荷物が見えないのです。荷物が見えないので、その荷物を下ろす事ができません。こういうアダルトチルドレン(AC)の「現在」は、幼少時の思い出という本来あって良いはずの「手がかり」を持っていないことから来ています。

有力な手がかり「性格」

しかし、実は有力な手がかりが「性格」の中に畳み込まれていることは案外知られていません。

苦しんでいるクライアントが自発的に語ることをカウンセラーが「傾聴」することで、クライアント自身がおのれの心に刻み込まれている痛み苦しみを見つめ、自ら新しい理解や洞察に達することで「癒し」を実現しようというのが、カウンセリングの大切な「原則」です。ですから、語られる問題に何らかの具体的な「解決策」をカウンセラーが提示するという事はありません。

私も、この原則に異論はないのですが、私の経験の中では、「自発的に語る」ことに多くのアダルトチルドレン(AC)の方々は苦しみます。どのように語ったらいいのか途方に暮れてしまうのです。自分が背負っている荷物の重みにあえいでいても、その荷物は見えず、当然、その荷物の中身について語ることが出来ません。語ろうとすると、涙だけがパラパラと出て、言葉は少しも出ないというかたが少なくありません。

私のところでは、自発的に何かを語って頂くということにこだわらずに、クライアント自身の「性格」についていろいろと質問させて頂くことにしています。自分の性格について質問をもとに考えてもらうのです。過去の思い出が何も出てこない場合でも、自分の性格については語ることが出来ます。不思議なことに、自身の「性格」についての様々な質問に向き合おうとすると、クライアントの心の闇が少しずつ晴れていくようです。そして、自分の性格を語る行間に挟まれている思い出が少しずつ顔をのぞかせてくれます。

 

今回の「機能不全家庭」では、子ども達がどういう「役回り」を演じることで生き残りを図るのか、その「役回り」は子ども達が持っているもともとの性格と深く結びついていることを見てきました。そして、その役回りを演じきれなくなって力尽きるとき、子ども達は不登校になるのですが、その不登校にも子ども達の性格が色濃く反映されることが分かりました。

今回の投稿では、アダルトチルドレン(AC)になってもおかしくない機能不全家庭で、3分の1強の子ども達が「たくましく善良で幸福感あふれる人間」として大人になった一方で、3分の2弱の子ども達が生き辛さや虚しさに疲れ「幸福感」のない人生を生きる大人になったというワーナーの研究を見ました。

このことから、アダルトチルドレン(AC)の本質と言うのは、「自分の人生に喜びが訪れることはないだろう」という「確信」にあることを述べました。しかし、その「確信」に至る道筋をリードしてきたものも、実はその人の「性格」なのです。「性格」を丹念に調べていくことによって、自分の人生に何が起きたのか、具体的な出来事も見えてきます。同時に、自分がどのような痛みに耐えてきたのか、それも見えてきます。そして、それが見えてきたとき、「癒し」はすぐそこです。

 

今回のシリーズで、「自分はアダルトチルドレン(AC)だという事実」に向き合った方もいらっしゃるかもしれません。その事実になぜ気付いたかというと、きっと、その事実を乗り越えて癒され幸福感に包まれるためかもしれません。それは、けっして自分のためだけではないかもしれません。少なくとも、あなたが幸福になれば、あなたの伴侶と子ども達も幸せになるでしょう。そのためにも、この人生を、喜びをもって生きること、そのことを諦めないでください。

あなたは意味もなくアダルトチルドレン(AC)になった訳ではありません。そして、あなたの子ども達も、です。

 

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

You may use these HTML tags and attributes: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>

*