機能不全家庭・・・・・・・・アダルトチルドレン(AC)のゆりかごPartⅡ

さて今日は前回の続きです。

「機能不全家庭の中で子どもはどんな役割を演じるのか」ということから、この問題をさらに掘り下げていきたいと思います。どんな役割を演じるか、というとまるで「劇」のようですが、実はある意味、子どもは必死で「劇」を演じているということが出来ます。

どういう劇かと言うと、「その家庭でどうやって生き延びるか」というサバイバル劇です。この意味で、斎藤学(サイトウ サトル:ACを早くから発見し警鐘を鳴らしている慶応大学病院精神科医師)氏は、とかく誤解されているアダルトチルドレン(AC)という呼び名をアダルト「サバイバー」(機能不全家庭を生き抜いた大人)と改めるように提唱しています。

なぜこういう提唱になるかと言うと、「アダルトチルドレン」と言う言葉は、日本では「大人になり切れない子どものような人」、「精神が未熟なまま大人になってしまった人」と言う風に、間違った使われ方が広まってしまったという事情があります。アダルトチルドレンは、前回見てきたような機能不全家庭で、生き延びるためにやむを得ず「ある役回り」を演じることで切り抜けた大人を指しています。

成人に達しても、その人の心の中には大きな傷が残って痛み続けるのです。その痛みの為に、生きる喜びや幸せを感じることが出来ず、意識するとしないとを問わず、いつも虚しさや絶望感に苛まれ続ける人たちです。このような大人たちのことをアダルトチルドレン(AC)と呼びます。

さて、子どもが生き残りをかけて演じる「役回り」を見て行きましょう。

 

「ヒーロー(ヒロイン)

ヒーロー(ヒロイン)は「優等生」を演じることによってその家庭で生き延びようとします。自分が「優秀な子」であり「しっかりした子」であることによって、親から褒められるように振る舞います。自分がこのように評価されることで両親を喜ばせ、その見返りに家庭を少しでも生き抜きやすい安定した場所にしようと必死に演じます。特に母親から頼られ信頼される事によって家族のバランスを保とうとするのです。

しかし、当座の目標を達成しても、すぐに更に上を期待されてしまう為、心が休まることはありません。安心できないのは、家族が分裂し家庭が崩壊することを常に恐れているからです。いつも「自分は完璧にやり遂げないといけない」、「完全な結果を出さないといけない」と思い詰めているのです。

結局のところ自分で自分を正当に評価することが出来ません。評価はいつも親がするからです。自分の中に自分を評価する基準がないのに、あるいはその基準を持てないからこそ、正義感と完全主義の塊であるかのように見えます。それなのに、結果としてやってくるのは不全感(十分にやることが出来なかった!)や失敗感(また失敗してしまった!)のみで、結局のところ安心できないまま常に苦しみ続けることになります。

この苦しみに耐え続けるために、ヒーロー(ヒロイン)は早熟であり、若くして老人のような印象を与えることがあります。ヒーローはこの意味で「小さな大人」になって生き残ろうとするのです。

「リトル ナース(小さな看護者)」

ケア テイカー(Care Taker:世話する人)とも呼ばれます。世話を焼くことで家の中の問題を何とかしようと奔走します。「優しい子」、「思いやりのある子」として、幼い兄弟姉妹の世話をするばかりでなく、親の愚痴を聞いたり手伝ったり、何かと面倒を見ようとします。家庭内の混乱の中で家族間の調整役を必死でこなします。自身の事はそっちのけで家族のために何かをしようと常に考えているのです。幼くして健気(ケナゲ)です。

その外見とは裏腹に心の奥底では自分に自信がなく、常に周囲から責められているように感じ、実際に自分自身を責め、「まだ駄目だ、まだ駄目だ」と自分を鞭打つのです。本当は、自我を見失っている状態で、自分自身の正当な欲求や自然な感情を認めることが出来ません。家族の一人一人から頼りにされ、依存されることで、少しでも家族の平和を保とうとします。

女の子に多いかと言うと決してそういうことはありません。男の子でもこういう役回りを演じて生き残りを図っている場合は少なくありません。リトルナースはこの意味で「小さな親」を演じることで生き延びようとするのです。

「ピエロ(道化師)」

マスコットとかクラウンとか呼ばれることもあります。「ひょうきんもの」を演じ、おどけて家族内の緊張を和らげようとします。問題が深刻化しないように、そして素知らぬ顔で問題を分散させるために、必死でピエロを演じます。家族内に不穏な雰囲気が漂い始めると、それが明瞭な形となって衝突を招いたり、暴力を引き起こしたりしないように、注意を必死にそらそうと動きます。落ち着きの無い行動を繰り返し、多くの場合、その行動の意図は分かりません。常に情緒不安を抱えていると言っても良いでしょう。

家族の緊張を和らげようとするため、いつも家族の笑いと関心の対象になろうとします。それがうまく行かない時には、過度に可愛く子どもっぽい自分をアピールします。「自分は弱くて誰かの保護が必要です!」と叫んでいるように見える時さえあります。頭の回転が速くユーモアにも優れますが、こういう時には、実はヒステリーを起こす寸前まで追い詰められていることが少なくありません。対外的に、人当たりが良く人を楽しませる才能に富んでいますが、半面、自己評価は極度に低く、自己愛に欠けています。

常に家族の衝突を恐れ、家族の中で孤独に苦しみ、いつも無力感にさいなまれているのです。ピエロはこの意味で、「親のペットのような存在」を演じて生き残りを図るのです。

「ロスト・ワン(Lost One)」

「ロスト・チャイルド」とか、「迷子」とか、「居なくなった子」と呼ばれることがあります。居ないふりをして、家族の争いの火の粉が自分に降りかかるのを防ごうとするのです。そのためには、自分が受けるべき注目や愛情を母親や兄弟姉妹に回すことも厭(イト)いません。思いやりと見えなくもないのですが、自分から注意をそらし、言わば居なくなったように存在感を希薄にして、家族のバランスを保とうとするのです。

家族は、「あの子は放っておいても大丈夫」と安心しがちですが、本人の内面は「自分はいつだって重要でない」「家族の一員とは言えない」「どうでもいい存在だ」と痛切な孤独感を味わっています。自分が孤独で居ることに耐えないと家族の平和はやってこないと信じているかのようです。ですから、いくら孤独でも泣き言をいうことはありません。この孤独に耐える力ゆえに精神的な自立は早く、内面的には自分の意志に敏感で決断力にも富んでいます。ところが、それを表に出した途端に家族の平和は崩れると固く信じているため、外見的には、自分が居なくても誰も心配しないような存在であることを欲します。常に無口で陰気な傍観者のように、優柔不断で行き当たりばったりの態度をとるのです。

こうした内面と外見の矛盾に苦しみながら、常に「自分は見捨てられた存在で、誰も自分の心の傷を理解しない」と自分をあきらめようとしています。ロストワンはこの意味で、「永遠の迷子」のような存在を演じて生き残ろうとするのです。

「プリンス・プリンセス(Prince・Princess)」

おそらく漫画から発してアニメでヒットした「プリンセス プリンセス」から取られたネーミングだと思いますが、私は漫画もアニメも知らないためネーミングの背景は分かりません。徹底的に自分の意思を封印してしまうことで、自分の身の安全を守ろうとします。意志なき人形を演じることで、親から自分の意思を完全に無視され、まるで人形のように溺愛されることを欲しています。人形になりきれば傷つかなくて済むと固く信じているかのようです。溺愛と言えば聞こえは良いかもしれませんが、実際は親にとって都合のいい人格や意思を持つこと以外は許されないのですから、常に人格を否定され続けて生きるのと同じです。

人形としての役割を背負った子供は、自由に楽しい子供時代を過ごすことが出来ず、成人したのちも「親または誰かの望んだ通りにしないと嫌われる」という恐怖心に苛まれています。人格を否定され無視されることそのものに依存しようとするのです。モラハラ、セクハラ、パワハラの被害者になりやすいとも言えます。

自由であることは不安であり、恐怖を引き起こす事なのです。プリンセス プリンセスはこの意味で、「命ない可愛い人形」を演じて生き延びようとしているのです。

「スケープ ゴート(生贄のヒツジ)」

スケープ・ゴート(Scapegoat)ですが、「身代わり」とか「犠牲者」と呼ばれることもあります。要するに、家族内の緊張や衝突や暴力を自分が無意識に引き受けることで、未然に防ごうとするのです。自分が問題行動を起こすことで、緊張や衝突や暴力が現実のものとなる前に、自分が犠牲になろうとするのです。このため、家でも学校でもどこへ行ってもトラブルを起こします。攻撃的に振る舞い自分の存在を主張することで、家族の中の本来の問題から家族の目をそらす役割を無意識に果たそうとしているのです。

しかし、自分の行動が人を傷つけているのを知っていますので、そのことで自らも激しく傷ついています。問題を起こそうとする衝動の底には巨大な怒りが煮えたぎっています。その怒りはしばしば自らに向かいますので、自傷行為として現れます。また、孤独に耐えられず、早くからアルコールや薬物に依存する傾向があります。また少女の場合には、年少妊娠などの非行に走りやすいと言えます。

意識的には、親からの「見捨てられた感」に苦しむよりは、問題を起こしてでも親の注目と愛情が欲しいと感じているのです。自分が問題児であり続けないと親の愛は自分に注がれることはないのだと信じているかのようです。ネグレクト(無視)されるよりは、親に殴られたいのです。こういう心の傾きは学校でも繰り返されますので、イジメのターゲットになりやすい面があります。それでも、無視されるよりはイジメられる方がましなのです。

その外面的な行動に関わらず、内心では周囲をよく理解していて、罪の意識にいつも苛まれています。このため、自己評価が極端に低く、誰に対しても反抗的で人の善意や愛情を受け入れることが苦手です。それを最も欲しがっているというのに!!!スケープゴートは、この意味であえて「問題児」を演じて生き残ろうとしているのです。

 

さて、あなたにとってどの「役回り」がいちばん心に響いたでしょうか?もし読んでいて涙が出てくるような「役回り」があったとしたら、あなたは幼少期、その役回りを演じることで、「機能不全家庭」を生き延びたのかもしれません。

次回は、「あなたは何故その役回りを選んだのか?」その悲しい事情を考えていきましょう。

 

おたのしみに!

 

コメント

  1. 大門隆

    yutaさん、はじめまして!
    アダルトチルドレンに限らず、こころの傷は、その傷を負った時の事を思い出して再体験すれば必ず治ります。大切なのは、あきらめない事です。ACに苦しむ人は、その傷をいやすすぐ手前まで来ているという事です。
    喜びと共に生きることを、いま、あきらめないで!

  2. たなか

    私は複数やってきた。
    リトルナースにクラウンにロストワン、たまにスケープゴートにもなっていた。
    治るとは思えない。

    1. kagayake 投稿作成者

      たなか様、
      「治るとは思えない」とのこと、そんな事はありません。
      治りますとも!もちろん!!絶対に治ります。
      不思議な事ですが、人間はそういう力を持っています。
      どうか決めつけないで、誰か、信頼できる人の胸を叩いて下さい。
      大丈夫です。
      安心して、ぜひ、そうして下さい。
      大門隆

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